目次
薬機法とは?薬事法・景品表示法とは何が違うのか

薬機法とは、保健衛生の向上を目的に定められた法律です。
薬機法の正式な法律名は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」で、厚生労働省が管轄しています。
以前までは「薬事法」と呼ばれていましたが、2014年11月25日に薬事法が改正されたことで「薬機法」と呼ばれるようになりました。
医薬品などは人体にとってプラス・マイナスどちらにも影響する可能性があり、品質・有効性・安全性を保つ必要があるため、薬機法は医薬品などを製造・販売・広告する際に間違いなく関係してくる問題です。
後ほど詳しく解説しますが、医薬品を販売する際、事実と異なる有効性を広告で宣伝するなどは、薬機法に抵触します。
また、薬機法とあわせて覚えておきたいのが「景品表示法」です。
SNSで広告を運用する場合は、薬機法だけでなく、景品表示法の知識も必須なので、まずは薬機法・景品表示法それぞれの内容から見ていきましょう。
薬機法の内容
薬機法は以下3つを目的に定められた法律です。
・保護衛生上の危害の発生および拡大の防止
・指定薬物の規制
・保護衛生の向上
薬機法第一条には、以下のように書かれています。
(目的)
引用:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 厚生労働省
第一条 この法律は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品(以下「医薬品等」という。)の品質、有効性及び安全性の確保並びにこれらの使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制を行うとともに、指定薬物の規制に関する措置を講ずるほか、医療上特にその必要性が高い医薬品、医療機器及び再生医療等製品の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより、保健衛生の向上を図ることを目的とする。
消費者を守るためには、品質・有効性・安全性の確保が必要です。
ただ、医薬品・医療機器などは、効能・効果だけでなく、副作用が起きる可能性もあり、国で認められていない成分が入っていたり、誇大広告によって誤った効能・効果を伝えたりした場合、消費者の健康が阻害される要因になりかねません。
そのため、薬機法では「開発」「承認」「製造」「流通」「使用」の各段階で厳しい規制があります。
薬機法の規制対象
薬機法で規制対象になっているものは、以下5つです。
・医薬品
・医薬部外品
・化粧品
・医療機器
・再生医療等製品
薬機法の規制対象は、薬機法第一条に明記されています。
それぞれ具体例を見てみましょう。
規制対象 | 具体例 |
医薬品 | 医療用医薬品市販薬(要指導医薬品、一般用医薬品(第1類~第3類医薬品))体外診断用医薬品(例:血液学的検査薬等) |
医薬部外品 | うがい薬殺虫剤染毛剤栄養ドリンクなど。 |
化粧品 | 一般的な化粧品(化粧水、乳液、ファンデーション)シャンプースキンケア用品など。 |
医療機器 | ペースメーカー人工関節超音波画像診断装置メス(クラスⅠ~Ⅳ) |
再生医療等製品 | 細胞加工製品(例:心筋の細胞シート等)遺伝子治療用製品(例:欠損した遺伝子を人の体内に投与するもの) |
健康食品・サプリメントなどは規制対象ではないものの、医薬品のような効果があるとアピールすると、薬機法に抵触する可能性があります。
この5つの規制対象は薬機法における基本となるため、しっかりと覚えておく必要があります。
薬機法と景品表示法の違い
薬機法と景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)は異なる二つの法律であり、薬機法は保健衛生の向上を目的としているのに対して、景品表示法は消費者の利益保護を目的としています。
以下が景品表示法の目的が書かれた第一条です。
(目的)
第一条 この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。
(引用:不当景品類及び不当表示防止法)
景品表示法で制限しているのは、嘘や大げさな表現で消費者を騙す広告であり、以下が景品表示法に違反する不当表示です。
- 優良誤認表示
商品やサービスの品質・規格などが事実と異なり、他社よりも著しく優れていると消費者に誤認される表示のことです。 - 有利誤認表示
商品・サービスの価格を著しく安く見せたり、取引条件を著しく有利に見せる表示のこと - 上記の他、一般消費者に誤認される可能性があるとして、内閣総理大臣が指定する表示も含まれる
つまり、仮に「これを飲めば食事制限をしなくても痩せる」といった内容のサプリの誇大広告があった場合、体に変化がある効能・効果の表現があった場合は薬機法に抵触し、食事制限なく痩せられることを証明できる合理的な資料がなければ、景品表示法に抵触することになります。
景品表示法は薬機法とは目的や内容が違いますが、SNS広告を運用するうえでは必須知識といえます。
薬機法に違反したらどうなる?罰則の詳しい内容について

薬機法に違反すると行政指導だけでなく、薬機法第七十二条の五によって罰則を科される可能性があります。
以下は薬機法第七十二条の五の一部を抜粋した内容です。
厚生労働大臣又は都道府県知事は、第六十六条第一項又は第六十八条の規定に違反した者に対して、その行為の中止、その行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他公衆衛生上の危険の発生を防止するに足りる措置をとるべきことを命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなつている場合においても、次に掲げる者に対し、することができる。
引用:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 厚生労働省
一 当該違反行為をした者
二 当該違反行為をした者が法人である場合において、当該法人が合併により消滅したときにおける合併後存続し、又は合併により設立された法人
三 当該違反行為をした者が法人である場合において、当該法人から分割により当該違反行為に係る事業の全部又は一部を承継した法人
四 当該違反行為をした者から当該違反行為に係る事業の全部又は一部を譲り受けた者
措置命令には、違反広告の中止だけでなく、再発防止の公示や公衆衛生上の危険の発生を防止するに足りる措置が求められます。
薬機法の罰則は、2年以下の懲役や200万円以下の罰金(あるいは両方)が科される重い処分です。
さらに、虚偽・誇大広告を行った場合は、違反を行っていた期間中の対象商品の売上額の4.5%を課徴金として支払う場合もあります。
薬機法違反は重い罰則があるため、抵触しないよう注意が必要です。
2021年の薬機法改正について 改正の背景と新しいルールとは?

2021年8月1日から施行された改正薬機法は、SNS広告を運用するうえで重要な内容です。
この章では、以下2点について解説します。
・悪質な広告の排除が目的
・改正により課徴金制度が導入された
課徴金制度が導入された背景と課徴金制度の詳細を見ていきましょう。
改正の背景
課徴金制度が導入された理由は、悪質な広告を排除するためです。
法改正前は虚偽・誇大広告があったとしても、起訴・有罪にされないかぎり、罰金の徴収は困難であったため、悪質な広告への抑止力が弱く、虚偽・誇大広告が多く出回っていました。
また、コロナ禍によって「免疫」「除菌」などの言葉を使った虚偽・誇大広告が多く出回り、行政処分を受ける事例も多く見受けられました。
このような事態を改善するため、課徴金制度を導入したのが法改正の背景にあります。
新しいルール
2021年の法改正により、以下の規定が新設されています。(一部抜粋)
(引用:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 厚生労働省)
第六十六条第一項の規定に違反する行為をした者)があるときは、厚生労働大臣は、当該課徴金対象行為者に対し、課徴金対象行為に係る医薬品等の対価の額の合計額に百分の四・五を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。
罰則を解説したときに少し触れましたが、課徴金とは虚偽・誇大広告違反に対しての罰金です。
課徴金は以下の計算で算出されます。
「違反を行っていた期間の売上額✕4.5%=課徴金」
ポイントは利益ではなく、売上の4.5%という点です。
例えば、違反を行っていた期間の売上額が1,000万円、経費を差し引いた利益が100万円だったとします。
課徴金は売上額の4.5%なので、以下の計算になります。
「売上額1,000万円✕4.5%=45万円」
利益100万円から課徴金を引くと、残る利益は55万円となるため、課徴金がどれだけ大きく影響するかわかりますね。
薬機法の規制対象には「何人も」と規定されているため、広告主だけでなく、広告代理店・アフィリエイター・インフルエンサーなどにも関係がある話です。
薬機法に抵触するSNS広告 違反となる表現の例

SNS広告では、薬機法違反となる表現を覚えることが重要です。
具体的な表現を覚えておけば、薬機法に抵触する表現を避けた運用ができます。
この章では、以下3つのケースで違反となる表現の例を解説します。
・化粧品
・医薬品
・健康食品、サプリメント
文章の表現だけでなく、画像の表現でも違反となる場合があるため、それぞれ見ていきましょう。
化粧品の場合
化粧品の違反となるのは、厚生労働省医薬食品局長通知にある56項目を超える表現です。
化粧品は容姿を清潔にしたり、美化したりといった表現が限界であるため、以下のような表現は避けましょう。
・フケをなくす
・白髪を予防する
・ニキビが治る
・シワがなくなる
・シミが消える
・100%肌質が改善
・他社の商品よりも潤いを与える
「治る」と思わせるような表現、確実性を主張する表現、他社と比較する表現はすべてNGであえい、文章だけでなく、写真によるビフォーアフターで効果を示すような表現も規制対象になります。
医薬品の場合
医薬品の違反となるのは、承認されていない効能・効果が書いてあるもの、効能を有していないのに、あたかも効能があるかのように誤解させるものなどがあります。
以下のような例は違反に該当するため、注意しましょう。
・「ひとみに栄養」
目薬の広告で使われた表現であり、ひとみに栄養を与えるという効能は認められないため、薬機法違反となりました。
・「目の下に何かついてますよ」「これは私の疲れです」
滋養強壮薬のCMで使われた表現です。
CMにて、あきらかに目の下の「クマ」を指している表現でしたが、承認効果外のため、薬機法違反となりました。
・「だるい、カルシウム不足、肩こり、腰痛のある人、糖尿、血圧が心配な人」
こちらは滋養強壮薬のパンフレットにあった表現です。
肩こりなどに効果があることは承認されていないため、薬機法違反となりました。
健康食品・サプリメントの場合
健康食品やサプリメントの違反になるものは、栄養補給や健康維持などを逸脱する表現です。
以下のような表現は、逸脱した表現になります。
・飲むだけで痩せる
・便秘解消
・高血圧の改善
・肝機能が良くなる
・免疫力アップ
・バストアップ
・疲れにくくなった
これらは栄養補給や健康維持などのレベルを超えており、虚偽・誇大広告となるため、十分注意しましょう。
SNS広告において薬機法違反となった実際の事例

薬機法を理解するには、SNS広告の違反事例を知ることも重要です。
インフルエンサーである「てんちむさん」は、彼女自身がプロデュースするバストアップ商品をInstagramで宣伝する際、「脂肪を大きくする成分がたっっっぷり含まれてて」と投稿し、この内容が薬機法違反にあたると指摘されました。
これは、「商品を活用すれば必ず胸が大きくなる」という不確定な情報を消費者に伝えてしまう表現であり、虚偽・誇大広告に該当します。
このほか、インフルエンサーが「#バストアップ」などのハッシュタグを掲載したことが問題となった事例もあるため、Instagramはハッシュタグの使い方にも注意が必要です。
Instagram以外にも、YouTube、Twitter、TikTokといったSNSプラットフォームにおいて広告を出稿する際は注意が必要です。特に、YouTubeでは「今まで事前削除できなかった日本特有の性的に思わせぶりな表現や誇大広告、薬機法違反などのポリシーに違反する広告を2020年6月以降55万件追加で削除しました。」と過去に発表しています。
Twitterにおいては、爆発的な拡散力がある反面、薬機法に抵触したときは大炎上となるリスクがあります。また、TikTok広告には審査があり、薬機法に違反している広告は審査に落ちるようになっています。
いずれのSNSを活用するにせよ、広告を出稿する際には事前に内容を綿密にチェックすることが必要です。
薬機法に抵触しないための注意点と対策

薬機法に抵触しないためには、トラブルが起きる前の対策が必要であり、事前に対策を講じておくことで、トラブル抑制につながります。
以下の対策によって、安全に広告を運用しましょう。
厚生労働省が定めているガイドラインを理解する
まずは、薬機法を正しく理解することが薬機法に抵触しないためには何よりも重要です。
厚生労働省が定めているガイドラインをしっかりと読み、知識を培うことができれば、トラブルを未然に抑制できます。
自社で広告ガイドラインを作成する
2つ目の対策として、広告ガイドラインを作成することが挙げられます。
企業で広告を運用する場合は、自社でガイドラインを準備しておけば、社員全員の認識を統一できるため、トラブルにつながる可能性が低くなります。
常に最新の情報にアップデートする
薬機法の知識を常に最新情報にアップデートすることも重要です。
せっかく薬機法を覚えたり、自社でガイドラインを作成したりしても、情報が古いままでは意味がありません。
2021年度の法改正のような場合だけでなく、法違反の指摘を受けたニュースなど、情報収集をすることでトラブル抑制のヒントになります。
専門家にチェックを依頼する
費用は掛かりますが、薬機法の専門家にチェックを依頼すればより確実に違反を未然に防ぐことができます。
資格を持った専門の薬事校正者にチェックを依頼すれば、薬機法に抵触するおそれがある表現の指摘・代替案の提示をしてもらえます。
【まとめ】薬機法に注意してSNS広告を運用しましょう

お話しした通り、薬機法を理解せずに広告を運用すると法律に抵触し、行政指導や罰則を受けることがあるため、SNS広告を運用する際には薬機法の理解が必須です。
薬機法で規制対象となっているのは、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品の5つです。
これらに関する広告をSNSで出稿する際には、商品・サービスが規制対象のものに該当しているかチェックし、薬機法に抵触しないよう注意しましょう。
コメントを残す